リハビリ病棟の詰め所にて
朝のミーティングで、看護師がとある患者さんの情報を読み上げた。
(僕の担当患者さんではないのだが、数回接したことがある)
『・・・先日外泊されて、うまくいったのでリハビリ病院に転院ではなくて、自宅に退院になりそうです。』
うむ、何ともスムースな・・・
といいたいところだが、
この患者さんは
一般的にはまだまだ働きざかりの年齢の女性。
家庭もある。
そして
重度の高次脳機能障害がある・・・
今回は頭(脳)の病気で入院されたのだが、幸いなことに、運動機能には問題がないレベルまで回復されている。
しかし、高次脳機能障害、特に、物事を記憶する能力に問題を残している。
後遺症というやつだ。
この患者さんの場合、記憶障害を中心とした症状は、「ちょっと記憶があやふや」というレベルにとどまらず、2桁の計算や日付の確認、人とかわした会話のエピソードなど・・・随所に問題が現れる状態。
こういった高次脳機能障害の、もう一つの問題は、「目に見えにくい」というところにある。
この患者さんも、ぱたぱた歩いておられるし、一見元気。
知識のない人の目には、「なんともない元気な人」と映るだろう。
その場での会話でも、一見問題ない。
しかし、記憶や計算がに問題があるということで、
たとえば、セールスの人がきたらどうするのか?
たとえば、買い物はどうするのか?
たとえば、道にまよったらどうするのか?
たとえば、近所の方との約束はどうするのか?
たとえば、家事において火の後始末はどうするのか?
たとえば、仕事復帰はどうするのか?
たとえば、子供の教育はどうするのか?
たとえば・・・
この患者さんが外泊されて「問題がなかった」というのは、あくまでも「動作上」だと思う。
「家でもうまく動けたよ」ってことだろう。立ったり歩いたり風呂入ったりね。
しかし、主婦として、あるいは職場に復帰する女性として、どうなんだろうか?
はたして、「大丈夫だったので」ですませることができるのだろうか?
やはり、高次脳機能を改善させるためのトレーニングや環境設定や目標が必要となるのではなかろうか?
この語の人生はどうされるんだろう?
曲がりなりにも(←と言っては失礼だが)リハビリ病棟の看護師さんなんだから「はぁ、そう言えばそうですね」的な返答では困るっ!
またもや、在宅スタッフに「こんな状態で退院させてっ!!」と怒られるではないか!
ま、
僕の担当患者さんではないので(最近の患者さんの情報を知らないから)、もしかしたら、本当に「問題がなかった」のかも知れないが・・・
とにかく、目に見えない問題は、難しい。
ただ、難しいのがわかっているからこそ、僕等スタップはできるだけ万全の体制で、できる限りの想像力でもって立ち向かわなければならないのだと思う。
ビバ、リハビリテーション!
コメント
高次脳は・・・
一番はご家族にどれだけその高次脳機能障害に関する情報を提供し、なにを気をつけてどう暮らすのかということを検討することが重要ですね。
re:高次脳は・・・
そうですよね。
ご家族の理解って必要です。
ただ、いまの状況は
ご家族に情報提供するスタッフに情報提供(教育)しなければならない状況になっていると思います(爆)!
そしてこと、急性期病院においては、そういった障害を持たれた方が、どうやって地域で暮らしておられるのかというリアルを知ることも必要かと思います。
検査上の異常値、病院生活から想像できる在宅生活の風景だけでは充分なことはできないと思います。
在宅の側や患者さんの側からフィードバックしていただけると、急性期側も身が引き締まると思います。
急性期の人間が在宅に出向いて、ありのままを見るという活動も必要でしょうが、(厳しく言えば)ベッドサイドのリアルさえ見ていないのが現状だろうと思います。
re:目に見えない
私は2000年12月に脳梗塞を発症し、丸10年経とうとしています。右片麻痺(2種2級)で、右足は歩けますが、右手指を動かせません。
何しろ急性期は「高次脳機能障害」、特に「失語症」が酷く、言葉が全然喋れませんでした。じゃんけんをするのにも「グー、チョキ、パー」をする意味も分かりませんでした。でも「障害者福祉」では「失語症者」として認定してもらえません。「“失語症患者”=“孤独病患者”」とも言われています。外出すると、店とか、金融機関とか、役所とか、コミュニケーションが取れず、泣きたくなりました。しかし今では急速に改善されつつあります。
私は「記憶障害」には該当していませんが、患者さんのケースは痛いほど分ります。彼女が回復されることを切に願っております。
>ミノタウロスさん
ご自身の体験を含めたコメントありがとうございます。
失語を初め、コミュニケーションも問題は大変ですね。
大変御苦労されたと思います。
そして、今なお大変かもしれませんが、急速に改善されつつあるということで、これからのさらなる回復もお祈りします。
ありがとうございました。