わらしべ

バスに乗るまでの時間を大幅に持て余して，何を食べようか悩み歩いた末に立ち寄ったのが，広島バスセンターのセンター食堂だった．

広島へは講習会のアシスタントとして参加するために来た．
先週の話である．
JRではなくバスを選んだのは「金がないから」という単純な理由だった．

センター食堂のメニュー棚でもひときわ安い値段で飾られていたのが

■ざるそば

だった．
とりあえず，麺でも飲みこんでさえおけば腹は膨れるだろうと思ったからだ．
松江までは４時間近くかかるのだから・・・

店内は（意外にも）にぎわっていた．
おそらくこのバスセンターから帰る人々や立ち寄る人たちが多いのだろう．
サラリーマン，おばさん，若いカップルと様々だ．

一人の僕は，長机の一人席に案内された．
金髪のアルバイト君は見かけによらず丁寧な口調で，僕をソコに連れて行った．

「ざるそば」を頼むことは決まっていたが，メニューに目を通して「何を頼もうか・・・」とフリをした．
別に意味はなかったのだが，注文をするタイミングがよくわからなかったのだ．

予定通りこの店最低価格の「ざるそば」を頼む事に成功した僕は，疲れた僕のポケットに重くのしかかる

■iPod

をテーブルの上に置いた．

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この「iPod」はデジタルオーディオプレーヤと言われ，パソコンにつないで多くの曲を持ち運ぶ事が出来る代物だ．
これさえあれば，どこに行ってもも好きな曲が聴ける．あるいは，パソコンのデータを持ち運ぶ事だって出来る．

数ヶ月前に，理学療法士の後輩が医師から３千円という破格で買い取ったのを，僕は破格の0円で買い取った・・・貰ったのだ．
なぜタダだったかというと，電源が入るものの，壊れてコントロール不能になっていたのだ．

「修理に出すのも金がかかる」

というので，僕が引きとった．

少々，手荒な事をしたのだが，無事修理完了し，それ以降「無料のiPod」は僕と生活をともにする事となった．
（修理の詳細はコチラ）

さて，そんな経歴をお持ちの「iPod」はカラー液晶でもなく，動画も再生できない１～２世代前の物だ．
オーディオプレーヤとメモリー（ハードディスク）としても昨日は持ち合わせているため，十分に活用できていた．

しばらく使用していると，自分なりの傷も付き愛着もわいてくる．

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そんな「iPod」をテーブルの上に置き，僕は「ざるそば」を待った．

さすがに早い．

注文して数分で
バイト君は「ざるそば」を僕の手元に持ってきてくれた．

「御待たせいたしました」

とバイト君が「ざるそば」の盆をテーブルに置こうとした・・・

その際，斜めになった盆から「つゆ」がこぼれ落ちた！

僕は汚いジーンズをはいていたのだが，それでも「つゆ」がかかるのはゴメンだったので，とっさに身を縮め「つゆ」の洪水から身をかわす事が出来た．

「大丈夫ですかっ？」

とバイト君が気を使ってくれた

が・・・

テーブルを見ると，「つゆ」の中の「iPod」を発見した．

思わず，「あっ！」と声が出た．

みると，電源コネクターの接続部分に「つゆ」が入り込んでいる．

アルバイト君は，もう一度不安そうに

「大丈夫ですか？」

と聞いてきた．
僕は，おそるおそる「iPod」を持ち上げた・・・
すると本体中身から「つゆ」が流れ出てくる・・・

「チョットマズいですねぇ～」

と言い終わらないうちにバイト君は

「弁償しますっ！」

と声を上げた．

その気持ちは嬉しいのだが・・・

これって，買えば3万円もしてしまう．
僕は，この「iPod」をタダで貰った事などは話せなかったが，

現実，これが無いと僕のQOL（=生活の質：Quality of Life）が低下してしまう事は間違いなかった．
生活を「iPod」に依存している訳ではないのだが，「iPod」の喪失よる喪失感は大きいと思う．

さて，店長が出てきて，事情を話した．
が，この店長さんは，無条件で，弁償してくれると言う．

「そんなに簡単に弁償しちゃっていいの？」

と思ったが．よいらしい．

とりあえず，連絡先等を伝えておいた．

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騙されていないだろうか？
なんて思っていたが・・・

18日・・・

北っ！

・・・いや

来た！

御願いしていたiPodが来たのだ！

かくして，後輩ちゃんからタダで貰った，古い世代の「iPod」は，「そばつゆ」の魔法によって，最新の30ギガ容量，液晶，動画再生機能を搭載した「新iPod」へと変身を遂げた．

この話を，別の後輩ちゃんに話したら

「わらしべ長者みた～い」

だとさ．
（チョット違う気がするのだけど・・・）