僕の隣には、女子大生。
見た目は高校生くらいの女の子で、実際に僕は『高校生?』と尋ねたくらいだ。
このくらいの歳ならば、年下に見られるなんてのは
うれしがることよりも、むしろ失礼に当たることかもしれないね。
タクシーの後部座席に僕と2人して並んでいる。
日増しに寒さを増す冬の雨がタクシーの窓を濡らす。
濡らすと思えばワイパーがそれを拭き取る。
滲んだ赤信号を点滅させるようにワイパーが動いてわずかな音をたてる。
そうかと思えば、車が水をはじく音が気になったりもする。
彼女は雨にぬれた髪の毛とコートをそのままにしている。
髪の毛もコートも、どちらも黒く、水滴が町灯りを反射してパラパラと光る。
彼女の目は涙にぬれていたのか、寒さに滲んでいたのか、とにかくそんな目をしていた。
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通勤には列車を使っている。
境線にのり、米子駅で山陰本線に乗り換え松江駅で下りる。
帰りは当然、その逆になる。
そういう生活をしてもう数年。
歳とともに仕事は充実していく。
それにかかわらず、列車はダイヤに従い、同じレールを通る。
ただ年とともに、ガラリと乗る乗客を変える。
主に利用するのは学生が多い。
乗客が多いといっても、僕が座席を逃すことはない。
田舎の列車のなので、満員と言ってもたかが知れている。
最終の列車ともなると4人がけのボックス席を1人で過ごすことになる。
最終といっても、町明かりが盛んな時間帯だ。
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そんな列車にのって、今夜も松江駅から帰路につく。
雨が降っていて、そのせいか対抗列車が遅れ、僕の乗っていた列車も4分遅れの運行となっていた。
米子駅について、ホームに降り、高架橋をこえて、境線の列車ホームに向かう。
向かうのは『0番ホーム』
僕の他に4~5人がおなじ経路をたどった。
乗ってきた列車が遅れていたせいもあって、小走りに0番ホームに向かう。
ダイヤは、ギリギリの接続で境線を走らせているから、山陰本線が数分遅れると、この境線には乗れなくなる。
しかし、境線は一時間に一本。
接続されるはずの列車を待ってからの出発となる。
ダイヤの乱れは珍しくなく、だいたいはアナウンスで
「境線境港行きの列車へ乗車のお客様は、少々御急ぎください」と言われることが多い。
今日はそのアナウンスがない。
0番ホームにつくと、列車はまだ待っていた。
この列車に乗るはずの乗客たちと息を切らしながらもほっとしていると・・・
少しずつ列車が動く。
列車は境に向かって、発車し始めた。
とはいえど、0番ホームには数人の客を残したままだ。
列車がスピードを落とし、僕たちを乗せるのではないかともおもったが、そのまま加速していき、ついにはホームを去ってしまった。
待つはずじゃないのか?
疑問符と残念の表情を浮かべ、0番ホームの乗客は(僕を含め)顔を見合わせた。
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米子駅の駅員さんに抗議を申し上げたのは僕一人だけで、その他の乗客は銘々に散らばっていった。
駅員は、当初
『もうでてしまいましたねぇ』
としか言わなかった。
それでも、接続されるはずの列車であるはずだと、言い張ると、やっと取り次いでくれた。
改札口でのやり取りだったけども、他の客の邪魔にならぬように、何度も身の位置を変えて駅員さんに申し出た。
若い駅員さんに変わって出てきたのは中年の方だった。
険しい表情をしておられたのだが、これは僕に対してではなく、おそらく運転手のミスだと受け取ったからだろうと思う。
電話をかけ、話をしておられる。
受話器を置いたかと思うと、僕の方は見ずに奥へ下がってしまった。
また、若い方の駅員さんに、どうなるものかと尋ねてみた。
・・・どうなるものかというと、こういう場合は駅側がタクシー代行を用意してくれるはずだ。
今までも経験あるが、山陰本線の最終列車が大幅に遅れた場合などは、接続するはずの境線を先に走らせ、米子駅に到着した乗客はタクシーで目的駅に向かわせてくれる。
僕は今日も、そういった対応をしてくれると思っていた。
いや、そうすべきだろうという気持ちが渦巻いていた。
若い駅員さんが申し訳なさそうに言うには
『すみません。こちらではこれ以上何もできません』
ということだった。
「タクシー出してもらえませんか?」
とねだる僕に対して「いま確認してみますから」と、そう返事するのみだった。
たしかに、彼には権限なさそうだし、仕方がないと思う。
そこに出て来られたのは、いかにも年配の、つまり白髪で小太りの、駅員さんだった。
僕を見るなり頭の帽子を外し挨拶された。
ジャムおじさんのような方だ。
謝罪の文句とタクシーを手配する旨を口早に言われた。
安心。
しかし、僕以外の方はどうしたのだろうか?
市の中心駅といえど、狭いから僕はグルリと周り、同士を探すことにした。
しかし、見つけることができたのは1人の女の子。
「さっき、境線を逃した方ですか?」
と声を掛けた。
不審者だと思われる前に、言葉を続けた。
『タクシーを用意してくれるそうですよ』
しかし、彼女はすでに、家かどこかに連絡をしており、迎えが来てくれるとのこと。
もはや
タクシーは必要ないのだ。
他の方達も姿が見えないところを見ると、各々になんとかされたのだろう。
タクシー乗り場に向かおうとすると、ひとりの女の子を見つけた。
黒髪に黒いコートの女の子。
雨に打たれた様子だった。
たしか、この子も0番ホームで見た子だと思ったので、先ほどのように声を掛けてみた。
潤んだ目で、「ハイ」と静かに答えがかえってきた。
列車がないから、バスがないかバス停まで向かったのだと言う。
この時間には田舎のバスは走らない。
どうしたものかわからないまま、また駅に戻ってきたとのこと。
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彼女は、僕の下りる一つ前の駅で下りるとのことだから、タクシーには僕から乗ることにした。
3人の見知らぬ人間がタクシーに乗り、言葉少なに夜の米子を通り過ぎる。
雨
彼女はタクシーの中でもそうしたように
目的の駅につき、タクシーを降りてからでも、雨に打たれながら深々とおじぎをした。
傘もないのに。
タクシーの運転手も僕も、お礼の相手にはふさわしくないとは思うのだが、帰る方法が見つかってかなり安心したからだろう。
もう雨も上がりそうな雰囲気だった。
何となく田舎臭いやり取りに安堵しつつ、もう一つ先の駅に向かった。
雨は止み、僕が自転車に乗るのを見届けてからタクシーはその場を去った。
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Unknown
いつも拝読しています。
今回の記事は特に素敵でした。
>Unknownさん
長い駄文にかかわらず、読んでいただきありがとうございます!