「行為は痕跡(コンセキ)を残す」
生態心理学者、アフォーダンス理論の権威の佐々木正人教授の言葉だ。
靴のソールのすり減り方だってその人の「歩き」という行為の結果だろうし、タバコを吸う人の頬がコケているのだって、たばこを吸うという行為の痕跡だろう・・・
階段一段目の手前に付けられた床のすり減ったアトだって、多くの方がそこでステップをそろえる結果だし、病棟の壁に付けられた傷も、ストレッチャーがそこをギリギリで通るという行為の痕跡だ。
外部環境だったり、身体にまでも行為の痕跡を見つけることができる。
世界のいろんなところにそれがある。
環境こそが行為を可能にするからだ。
今日も、行為の痕跡を見つけた。
渡り廊下をあるいているときのこと・・・
渡り廊下は60メートル以上もある。
病院の立て替え工事のためにつくられた仮設のものだ。
そこには大きな窓が何カ所も設けられていて、この長い廊下を歩きながら遠くに見えるかすかな大山や、目下の城下町を臨むことができる。
行為の痕跡は、そんな窓の、下端にあった。
うっすらと不透明に・・・
それは、おそらくは「オデコ」の跡だった。
渡り廊下の患者さんたちは、オデコを窓にくっつけて外の景色を見る。
特に、窓のすぐ外には、城下町ならではの堀が通っている。
そこを通る遊覧船を覗きこもうとすると、自ずとオデコを窓にすりつける形になる。
窓は危機管理上、全開にはできない仕組みになっている。
だからオデコを窓にすりつけて外をみることになる。
そのオデコの汚れが窓の下の方にしっかりとついている。
60メートルの間に何枚も張られた窓の下端にそんな「覗き込み」の行為の痕跡を見ることができる。
患者さんたちが窓の外をながめる行為は特別に思える。
「希望」というか・・・
「病院」という独特の空間から抜け出そうとする「意志」というか・・・
僕が病院で関わっているリハビリテーションは、そんな「希望」をかなえるための力がなくてはいけないと思う。
病院の中から窓の外に連れて行ってあげるための手助けをしなければならない。
一生懸命、窓にオデコを押し付けている患者さんたちを、どうにか外へ!
そんなことを、ふと、オデコの跡から感じた。
「行為は痕跡を残す」
僕の行為も、いろんなところに"良い"痕跡を残すことができたらいいな。
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残ってますとも
最近ある新人PTさんと、一人のおばあちゃんにアプローチしてます。
廃用で体が丸まって立つのも難しく、すっかりやる気も無くなった方。
「腹這いにしてあげよう」と根気良く関わっていた彼女(PTさん)。
「今日は楽に腹這いになれて体が延びたんです」と満面の笑みで報告に来ました。おばあちゃんも今日は沢山の笑顔でした。
はっきりこんな「痕跡」を残せるあなたたち…素敵ですね。不自由な体に苦しむ人たちの大きな希望です。
そして私にとってもかけがえのない存在です。その軌跡を見逃さないよう頑張るから…。
>女医Mさん
お医者さんの立場から、セラピストに対してそのようなコメントは、とても励みになりますよっ!
その新人PTさんも、そういう点でもモチベーションが高まると思います!
セラピーで成功した体験てのは、次のセラピーのレベルをさらに押し上げてくれる気がします!
(逆に言えば、成功体験がなければ、平凡なアプローチばかりすることになると思うのですが・・・)
医師からの率直なコメントってのは、本当に大切だなぁ~と思います!
これからもよろしくお願いしますねっ!