研修会を終えて、本屋まで歩いていた。
いつもだったら、まだ職場にいる時間だ。
研修会がある日は返って早めに職場を離れるので、夜が長く感じる。
研修会会場から本屋は少し距離があったけども、久々の町を歩くことにした。
町といっても、わずかに近代化された寺町で、むしろ古風を感じる道取りだった。
そこを抜けて大通りに出ると、信号に久々に出会った気がする。
もはや車の量も少なく、やや大げさに信号が切り替わっているようにも思える。
目的地までもう100メートルほどだっただろうか。
道の向こう、4車線分の距離に変な光景が見えた。
2人の人影。
一人は地に伏していて、しばらくすると四つ這いを始めた。
もう一人は立ったままそれを見ている。
どうも緊急事態ではなさそうだ。
が、その四つ這いの人を残したまま、もう一人は消えてしまった。
そこは歩道に面したラーメン店の駐車場で、消えてしまった人は、店の中に消えてしまったのだ。
この時点で、やはり緊急事態なのではないかと感じた。
具合を悪くして倒れた一人。
もう一人は助けを呼びに店の中に舞い戻った・・・という状況なのではないか?
ことは4車線の車道の向こうで起こっている。
が、車の流れがなかったので走って、向こうに渡ってみることにした。
何ができるのか分からないけども、野次馬以上には役に立つと思う。
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たどり着くと、四つ這いの人は、這っていた。おばちゃんだ。
コンタクトを落とした人が床を探してまわる仕草をされている。
「どうされましたか?」声をかけたが、返事はない。
大きめの吐息をはきながらあたふたしている、おばちゃん。
もしかして、耳が聞こえないのだろうか?
そして、目も見えないのだろうか?
が、僕の足下に、眼鏡を見つけた。
フレームの一つなくなった眼鏡。
それを探しているのだろうと思い、おばちゃんに手渡すと、片側フレームのまま耳にかけて「すみません、すみません」と繰り返される。
おばちゃんは背が低いので僕を見上げながら
早口で説明をされた。
興奮しているのか、順序はバラバラだったが、要約すると
『昨日から続く兄弟(姉妹?)喧嘩で、いま顔を殴られ、眼鏡が壊れてしまった。』
ということらしい。
僕に感謝されたが
迷惑ついでに、電話を貸してもらいたい、と要望された。
貸してあげたかったが、新手の詐欺の可能性も考えて、お店でかりましょうと言った。
すると、
『では、ここで出てくるのをまっていてもらえませんか?ウチはすぐそこなので主人を呼んできますから!』
意味が分からないが、このおばちゃんのご主人をよんでくるまで、兄弟がラーメン店から出て来ないか見ておいてくれということらしい。「妹」と言ったかもしれないが、言わなかったかもしれない。
もし出てきた場合にはどうすればいいというのだ?
『大きな声で叫んでください。』
と言ったまま、おばちゃんは走って行ってしまった。
しかし、見たってどんな人か分からない。
まぁ、おじちゃんかおばちゃんだろう。
仕方ないから、ラーメン店の入り口と、おばちゃんが去っていった方を見比べながら待つことにした。
ラーメン店の出入り口はガラスなので奥がよく見える。
しかし、模様が貼られているのと、二重扉になっているので、しっかりと見ることはできない。
そもそも、しっかりと覗けないためにこんな構造になっているのだろうか・・・
などと、考えていると
ラーメン店の入り口の奥から黒い影がみえた。
こちらへ、つまり外へ向かってきている・・・
叫ぶのか?
叫ばないのか?
どうすればいいのだ。
扉から出てきたのは、若い女性だった。しかも2人。
どう考えても、おばちゃんを殴った人には思えない。
2人で、喧嘩のことを話しておられた。
言葉の端から推察するに、おばちゃんはラーメン店の中で喧嘩を始めたようだ。
外に出てから殴られたなんてのは、店内の人には分かるまい・・・。
僕の後方から家族連れがやってきた。
「並んでる・・・いっぱいかなぁ」
と声が聞こえる。
僕が店に並ぶ客に見えたのだろうか。
そんなに人気のあるラーメン店とは思えないのだが。
そうこうしているうちに、先ほどのおばちゃんがこられた。
後ろにご主人さんを連れて。
作業着だったろうか、そんなような格好で、頭は七三分けの大人しそうなおじいさんだった。
2人して、どうもすみませんとお辞儀された。
おばちゃんはもう一度、昨夜からの顛末を、僕を見上げながら話したあと、店内をながめた。
この夫婦とも店に入る様子はない。
おそらく出て来られるのを待つのであろう。
僕はそこで、失礼することにした。
流れから、僕の任務は終わったように思われたからだ。
つまり、店からそれらしき人が出てきたら叫ぶという任務だ。
また、4車線を渡る途中、後ろを振り返ったら、まだ、夫婦は立ちすくんでいる。
何か話をしているのだろうか、それとも無言でおられるのだろうか?
太陽がニコニコ笑ったような店のマークが、滑稽に思えた。
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Unknown
変わった経験したね…
>Unknownさん
コメントありがとうございます!
こんな経験あまりない方が良いのですが・・・