キグチコヘイハ テキノ タマニ
アタリマシタガ、 シンデモ ラッパヲ
クチカラ ハナシマセンデシタ
(「尋常小学校修身書」より)
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(以下、高村暢児 物語日本史「日清日露戦争 太平洋戦争」より)
松崎大尉は木口(きぐち)ラッパ手をふりかえって、
「突撃するぞっ、進軍ラッパを吹きならせっ。」
と命じた。木口ラッパ手は立ち上がると、ラッパを口にあてて、力いっぱい勇ましい進軍ラッパを吹きならした。その音に、
「突撃っ!」
ウワーッと、兵士たちはいっせいにおどりあがって、敵陣めがけて走り出した。
木口ラッパ手も、負けじと先に立って走った。
ピュン! ピュン!
と飛んでくる敵弾も激しくなった。と、どうしたわけかラッパの音がとだえた。
「ラッパはどうしたっ。木口はやられたかっ。」
みんなはハッとなった。
しかし、すぐにまたラッパはひびきだし、その勢いで、ワーッと敵陣に突入していった、
ラッパの音は、しかし、だんだんと細く、微かに苦しげになって音が絶えた。
敵陣を占領したあとで、戦友たちがもどってみると、木口ラッパ手は、ラッパを口にあてたまま死んでいた。敵弾が喉をつらぬいていたのだった。
死んでもラッパを吹きつづけたというこの勇ましい話は、やがて国内につたえられ、小学校の修身の本にのせられ、軍歌となってひろくうたわれた。
渡るに安き安城の・・・・といううたいだしで、
このときひとりの ラッパ手は
とりはく太刀の つかのの間も
進めすすめと 吹きしきる
進軍ラッパの すさまじさ
その音(ね)たちまち うち絶(た)えて
ふたたびかすかに 聞こえたり
うち絶えたりしは なにゆえぞ
かすかになりしは なにゆえぞ
うちたえたりし そのときは
弾丸のんどを つらぬけり
かすかになりし そのときは
熱血 気管に あふれたり
というのだった。
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