新作を発表しないことで、その存在が誇張されてしまった作家
J・D・サリンジャー
2010年1月27日
91年の人生に幕を閉じた。
「ナインストーリーズ」
「フラニーとゾーイ」
そして、
「ライ麦畑でつかまえて(Catcher in the rye)」
心の奥底からしみ出すような素直さ、それ故の屈折。
そして多くの謎をのこすような・・・
そんな小説だ。
ホールデン・コールフィールド
ライ麦の主人公だが、この青年が世界に与えた影響は計り知れない。
ジョン・レノンの暗殺やなんかを正当化するわけではないけども、ホールデンの意思を受けつぐ人は日増しに増えていると思う。
此処彼処に落書きされた「ファック・ユー」を必至に消してまわる。
それが子供達、そして大人になりきれない自分の目に触れないように、不器用にも隠してまわる。
純粋なものが穢されてはならない。
だから
「ライ麦畑のつかまえ役」そういったものになりたい、とホールデンは願った。
大人の社会はインチキだらけのライ麦畑(ウソツキ畑)。
そんな広大なライ麦畑に無邪気に駆けまわる子供たちがいる。
純粋な子供たちだ・・・
まわりはライ麦だらけで、ふと気付いた時に
畑の中に口を開けた断崖に子供たちは落ちてしまう。
インチキ社会の暗黒に落っこちてしまう。
そういった子供たちをキャッチしたい。
「ライ麦畑のつかまえ役」そういったものになりたいと考えた。
ホールデンは、自分自身が落っこちた子供であったから、よくわかった。
かといって、大人にもなりきれない。
崖の下の孤独をホールデンは味わった。
自分がキャッチできることを証明できれば
自分がキャッチされることを肯定できる
I thought what I'd do was, I'd pretend I was one of those deaf-mutes.
(僕は耳と目を閉じ、口を噤んだ人間になろうと考えたんだ)
そういって消えかけては、やはり自分の存在を肯定しうる何かを探す。
ホールデン・コールフィールド
この作家、サリンジャーの死とともに、その存在が永遠に続いていくこととなった。
続編はもうつくられない。
そして、オリジナルの不在が、オリジナルなきコピーを生み出す
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『とにかくね、僕にはね、広いライ麦畑かなんかがあってさ、
そこで小さな子供達が、みんなでゲームをしているところが目に見えるんだよ。
何千っていう子供たちがいるんだ。そしてあたりには誰もいない。
誰もって大人はだよ。僕のほかにはね。
で、僕はあぶない崖のふちに立っているんだ。
僕の仕事はね、誰でも崖から落ちそうになったら、
その子をつかまえることなんだ。
ライ麦畑のつかまえ役、そういったものに僕はなりたいんだよ。』
(原文訳:野崎孝)
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