病棟を歩いていたら、看護師さんと患者さんが、廊下の中央でたたずんでいた。
口元を拭く看護師
優しい看護師さんで、口元のゆるい患者さんの顔をきれいにしようと、手拭きを患者さんの顔に伸べていたのだ。
けども、実は美しい光景ではなく、様相はボクシングのよう。
ジャブを繰り出す看護師さんと、それをスウェイバックやダッキングでかわす患者さん、そんな感じだ。
(〝感じだ〟というと〝カンジダ〟を思い起こすのは医療者たる宿命か)
この患者さんは、認知機能に問題がある方だ。
看護師さんの思いやりも、その患者さんにとってはそれが攻撃に映ることがある。
残念ながら。
僕は通りがかりであったので、(失礼ながら)滑稽な様相を呈すふたりをじっくり拝見することができた。
僕は患者さんの背中を撫で、『こんにちは』と声をかけた。
すると、患者さんは深くお辞儀され挨拶を返してくれた。
『具合はどうですか?』と尋ねると、患者さんは『この方は本当にいい人で』と、僕のことを看護師さんに紹介してくれた。
なんか、こういうことってある。
心が通ったように感じる時。
自分を見つめるもうひとりの自分 | |
柳田 邦男 | |
佼成出版社 |
柳田邦男の本を読んだ。
その中に『不安の中にいる人の心に真に寄り添う』という言葉があった。
きっと、患者さんは口元をきれいにすること(綺麗にされること)よりも、他のことを欲していたのかもしれない。
患者さんにとって何が安心をもたらすのだろう。
それを考えていきたい。