個室のベッドの上には、一人のおばあさんが寝ておられる。
声をかけても、うっすらと目を開けられるだけで。
そのほか何にも変わらない。
沈黙・・・
それよりも静かな状態で
時間は流れていても流れていなくても
関係のないようだ。
おばあさんの呼吸の活動さえも
注意深く見なければわからない。
よく見ようと身を乗り出すと
ベッドが揺れて
よけいに見にくくなる。
白いレイスのカアテンは
外の光をまぶしく反射して
白い部屋をさらに強調しているよう。
もう一度、声をかけてみても
何も変わらない。
うっすらと目を開けてくれていたのだと思ったけど、
最初からそうだったのかもしれない。
そんなふうに思った。
照頭台に目を向けると
一枚の色紙が目に入った。
ここに来られるまえに
おばあさんが通われていた施設のスタッフからのメッセッジ。
その色紙の中の
文字に描かれたおばあさんは
いつもニコニコして
スタッフに声をかけ
とても親しげに話しておられる、人気者のおばあさんだ。
この深い深い眠りの中から
おばあさんを呼び戻せるんじゃないかと
そう錯覚する
僕にはその力があって、
もとのおばあさんにもどせるんじゃないかと
そう錯覚する
呼吸をしている
肌は血色を帯びている
脈もあるし
時に動いたりもされる
うっすら開けた目には
光が這入っているだろう
僕の声が届くだろうか
しばらく前にご家族が来られた
おばあさんをとても大事にしておられた
その時からも時間は流れて
カラダの代謝は止まること無くとどこおることなく
ただ、その意識だけが沈黙を続けている
いつかの目覚めにそなえて、僕は僕のやれることを毎日続けるんだ。