陰陽師(おんみょうじ) (文春文庫)夢枕 獏文藝春秋このアイテムの詳細を見る |
生命がなくとも、ものには霊が宿る
霊もまた、呪(しゅ)と同じものよ
霊と呪とを違うものとして見ることはむろんできるが、同じものとして、見ることもむろんできる。ようは見方だ
たとえばここに、石があるとするな
つまりそれは、生まれつき宿命として、石という呪をその内に持っているものだ
で、このおれがさ、その石を握って誰かを殴り殺したとしよう
さて、その石は、石であろうか、武器であろうかな
(それは、石でもあり、武器でもあるということであろう)
霊と呪とが同じというのはそれほどの意味さ
おれが石というものに、武器という呪をかけたことになる
呪にも色々な呪があってな。名も、石を武器として使うのも、呪をかけるということでは同じだ。呪の一番基本的なものさ。誰にでもできる
でよ。昔から、形が似れば霊が宿るというが、それは本当のことだぞ
形もまた呪の一種だ
たとえばここに、人の形ににた石があるとするな
それはつまり、人という呪をかけられた石だ。似れば似るほど強い呪がかけられていることになる。石の霊が、人の霊性をわずかながら帯びることになる。それだけならどうというほどのものではないが、それが人の形に似ているからと皆がその石を拝むことになれば、その石に、さらに強い呪をかけてしまうことになる。帯びる霊性も強くなる
時としてあやかしをしたりする石は、そのような、人に何年も何十年も拝まれた石だな。
だからさ。もとはただの土であったものをこね、焼いて壷にするというのは、壷という呪を、こねたり、火を加えたり、てまひまかけてその土にかけるということなのだ。そういう壷のひとつが、鬼(き)と変じて災いをなすというのも、あながちわからぬ話でもあるまい