『え~ばぁ~た~』
『え~ばぁ~た~』
御夫人・・・と言っても、ご高齢のおばあさん。
痩せていて、脳卒中の後遺症のせいで、ほとんど寝たきりに近い状態。
手伝いがなくては、
起きることもままならず・・・
坐ることもままならず・・・
僕が病室に入ると、
御夫人は
冬用のふっくらした布団の中から声を挙げておられた。
『え~ばぁ~た~』
『え~ばぁ~た~』
このおばあさんのことを、『御夫人』というにふさわしいのは
頭のオシャレにある。
布団の下から覗かせるその頭髪は
うっすらと染めてあり
パーマがかけられていた
・・・その痕跡がうかがえる。
入院期間も長いのか、もはや髪の生え際からはしっかりと白髪が姿を現していて、パーマも幾分弱くなって寝癖と区分けがつかなくなっている。
『え~ばぁ~た~』
『え~ばぁ~た~』
モソモソ動く冬用の布団の下から声が続く。
うなり声
というのか
ヨワヨワしくも振り絞る声が、僕に訴えてくる。
何かを伝えたい。
一生懸命、呼んでいる。
『ねぇ、私に気付いて!』
そんな感じだ。
僕は同室の別の方に用事でこの部屋に入ったのだけど
この『え~ばぁ~た~』が胸に響く・・・
助けたい!
何を言っているの?
訴えたいことは何?
その御夫人に声をかけようかと思っていたところ・・・
看護師さんが病室に入ってきた。
相変わらず、「失礼します」もないまま、勢いよく入っている。
そして
御夫人にこう言った。
『ヘルパーさんなら、今日はいませんよ!正月休みじゃないですか?』
・・・
胸が詰まる思いだった。
ヘルパーさん?
御夫人が、助け(?)を求めていたのは
ヘルパーさん。
『え~ばぁ~た~』
は
『ヘルパーさ~ん!』を一生懸命叫んでいたのだ。
おそらく、入院前のご自宅でヘルパーさんにお世話になっておられたのだろう。
いまも声をかけるのは、ヘルパーさん。
近くにいる看護師でもなく、僕でもなく、主治医でもなく・・・
『ヘルパーさん』を求めていたのだ。
この声を届けたい!
ヘルパーさん。
御夫人はあなたを呼んでいる。
何か訴えたくて
何か助けを求めたくて
あなたを呼んでいる!
あなたを呼んでいるんです!
いまでも
あなたを呼んでいるんです!
ヘルパーさん!
あなたは、この御夫人の髪が染めあがって、パーマもしっかりした頃のことをご存知です。
あなたは、オシャレだと言った筈です。
一緒に笑った筈です。
だから今一度
御夫人の元に来て、髪を撫でてあげてください。
長い入院でくたびれてしまったこの髪を、撫でてあげてください。
いまでも
あなたを呼んでいるのです!
『え~ばぁ~た~』
と力を一杯に呼んでいるのです。
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Unknown
胸に詰まるものがあるお話ですね。
今の社会の不条理さ、非情さを感じました。
>hidarumaさん
コメント有り難うございます。
いま出来る限りのことを患者さんにしたいと思います。
ただ、僕には出来ないこともあります。
ヘルパーさんは、かなり頼りにされていたんだと思います。
こうやって、いつでも
呼ばれるようなセラピストになりたいと思います。
こんばんは
あけましておめでとうございます。
この方にとって、「ヘルパーさん」は、信頼してる人だったのだなーーととても感じます。できることなら、伝えてあげたいですね
人と出会い、人の心の中に残るような人になりたいなーと思いました。
別件ですが、もう少ししたら、評価実習なんです(^^)自分が今できる事を精一杯頑張ってきたいと思います。
re:こんばんは
>みーごさん
あけましておめでとうございます。
人との出会いは本当に大切です。
変に仕事に慣れてしまわないように、今の気持ち情熱を大切にして臨床実習に取り組んでください。
臨床実習の体験は、その後のセラピスト人生に大きく関わります。
臨床実習は辛いこともあると思いますが、元気が一番です。
しっかりと挨拶をすること。
言われてことを守ること。
現況に励み、技術を身につけること。
そのうえで、分からないことは質問して、解釈すること。
暗い顔して、背を曲げ下を向いて歩かないようにしてください。
患者さんを元気にするのが僕たちの仕事ですから、自分たちも元気でいる必要があります。
頑張ってください。
ありがとうございます
アドバイスありがとうございます。
今の気持ちを大切に(^^)
元気で素直な気持ちでいこうと思います。
以前、kazzさんのブログで、kazzさんが学生に対して書いてる事が、心に響いたことがあります。きっと実習中にその言葉を思い出すと思います。
頑張ってきます。また、時々、ブログを見ますね。
re:ありがとうございます
>みーごさん
どういたしまして!
またいらしてください。
ちなみに、「kazzさんが学生に対して書いてる事」
これですね↓
http://blog.goo.ne.jp/kazz_ash/d/20090522
※「実習生」関連の記事はコチラ
http://blog.goo.ne.jp/kazz_ash/s/%BC%C2%BD%AC%C0%B8
Unknown
そうですね・・・。
呼ばれるようなセラピストになりたいですね。
だけど、誰かの人生に関わる、そのことの責任をとても感じました。
名指しでなくとも、誰かが僕らに助けを求めているかもしれない。そう思ったら、胸が締め付けられるような気分になりました。
まだまだ、僕らにもすべきことがあるかもしれませんね。できることがあるかもしれませんね。
>510さん
ありがとう。
あるある!
僕等に出来ることは、確かにある!
だって、専門家ですもの
(*'ー'*)ふふっ♪
出来ることないとおかしいからね!
ただの流れ作業的に理学療法を行わないことだよね!
精進精進!
臨床家として頑張っていこう!
Unknown
そうです。このあたりの時期にkazzさんのブログを見て、いろいろ考えさせられました(^^)
『患者さんのために120%の努力をしたのか?』という言葉がすきです。
あ、私、コメントしてますね(^^)
Unknown
臨床実習!
頑張ってくださいね!
コレからの臨床家としての人格が形成される部分でもありますので!
また是非是非コメント下さい!
学生から見た臨床てのもかなり役に立つものです!